Azure IoT  × インドネシア伝統の乗り物 が創りだす参加型アート十和田市現代美術館、作品の位置を可視化しITとアートの融合を実現

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(左より)

十和田市現代美術館 広報
大谷紗絵氏

十和田市現代美術館 管理運営統括課長
豊川大樹氏

十和田市現代美術館 アシスタントキュレーター
里村真理氏

十和田市現代美術館 学芸員
見留さやか氏

十和田市現代美術館 普及事業マネージャー
ミヤタユキ氏

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企業名:十和田市現代美術館
十和田市現代美術館は、国内外で活躍する22名のアーティストの個性的な作品を、世界的な建築家西沢立衛による、ガラスの廊下で繋がった「アートのための家」の空間とあわせて体験する、アートと建築が融合した開放的な美術館。十和田市のシンボルロード「官庁街通り」全体を一つの大きな美術館と見立てたアートによるまちづくりプロジェクトArts Towadaの中核施設として、まちに開かれている。未来の創造への橋渡しとなると共に、都市の活性化に寄与し、市民と作る参加型の運営を目している。

日本マイクロソフト株式会社にも注目され、事例動画が作成されました!

ITとの融合による新しいアートプロジェクト

美術館の外に、変わった乗り物らしきものが複数並んでいる。そして館内に入ると、モニターに表示された地図に例の乗り物を模したアイコンが点在し、なかには動いているものもある。どうやらあの乗り物の現在地を示しているようだ。

これは十和田市現代美術館の企画展「ウソから出た、まこと ―地域を超えていま生まれ出るアート」(2019年4月13日〜9月1日)の一環として展開されている美術家・北澤潤氏によるプロジェクト型の作品「LOST TERMINAL」。北澤氏は米経済誌「Forbes」で各分野における「30歳未満の重要人物」を決める『30 Under 30 2016 Asia』でアート部門の30人のひとりに選ばれるなど、国内外で注目されている存在だ。今回の企画展ではインドネシアの乗り物を、GPS発信機とともに来館者に貸し出し、十和田の街を自由に移動できる、としている。日商エレクトロニクスはこのプロジェクトにマイクロソフト社のAzure IoTを活用した位置情報追跡ソリューションを提供。GPSセンサーから発信するデータ情報をAzureのIoT Hubに投げることで、乗り物の位置を可視化する仕組みだ。この異業種間でのコラボレーションの意義とそこに至った経緯、そして効果について、北澤氏と、制作に携わる十和田市現代美術館の学芸スタッフ・里村真理氏、コンシェルジュ・土井太陽氏に話を聞いた。

北澤 潤氏について

美術家。北澤潤八雲事務所代表。日常に問いを投げかける場を共同体の内部に生み出す「コミュニティ・スペシフィック」を志向したアートプロジェクトを実践し続けている。インドネシア滞在。
米経済誌フォーブス「30 Under 30 Asia 2016」アート部門選出。

北澤氏コメント:
美術作品は管理されているもの。位置情報の可視化により屋外に作品が出ても管理できている状態を保てました。

美術館の外に出ていく作品の“位置情報”を把握したい

美術館の庭に並ぶのは、インドネシアから持ってきた3種類の乗り物、スペーダ(装飾付自転車)、グロバ(三輪屋台)、べチャ(三輪人力車)、計19台と十和田市ゆかりの馬車1台。

「路上が整備された日本の都市では移動するという行為は目的主義的ですが、僕が今住んでいるインドネシアのジョグジャカルタだと路上は単なる通過点ではなく、道すがら出合う屋台や行商に寄る人がいて、会話が生まれ、面白い文化を育んでいます。システム化が進みすぎた日本の路上で我々は何か大事なものを失っているんじゃないか。それを問わなければならないと思った時に、目をつけたのがこの乗り物たち。これらが二つのローカリティを越え、十和田の街でなぜか普通に使われて、そこで会話が生まれ、馴染んでいくという状況をつくるうえで、GPSで位置情報を可視化して把握することは非常に重要でした」(北澤氏)

位置情報を把握することの目的のひとつは管理。乗り物の盗難防止や乗る人の安全を守ることだけでなく、それは美術界における重要な意味をもっていた。

「美術館のなかにある作品は所在や状態が管理されているもの。LOST TERMINALのように美術館から外に展開していく作品も、どこでどのように使われているかが分かれば、ある意味、美術館が管理できていると言えるかもしれません。今回GPSで街なかにある乗り物の位置情報を把握できるようにすることは、安全面だけでなく美術館の『内と外』をつなぐためのソリューションになるとも感じています」(北澤氏)

GPS端末から取得したデータによって乗り物が移動した軌跡が分かる。これは作品が美術館を飛び出して拡張した距離となる。さらに、もうひとつの目的は鑑賞者と作品を結びつけること。

「館内でモニタリングされることによって、乗り物に乗る人が街なかにおいても美術館と繋がりを保つことができます。無造作に投げ出されるのではなく、作品の一部となって一緒につくっているということを感じてもらえることは、参加型アートプロジェクトにおいてとても重要です」(里村氏)

IT知識ゼロ、アイデアをカタチにする方法がわからない

そうしたアイデアは湧くものの、具体的にどうすれば実現できるのかは分からなかった。

「身近に前例はありませんでしたし、時間も予算もあまりない。運用の形も変化させながら進めていこうと考えているプロジェクトの為、作品の完成形を提示できない状況で、どこに相談したらいいのかも不明でした。それに協力者と出会えたとしても、その技術をITの知識がさほどない私たち美術館スタッフが使いこなせるのか、不安がありました」(里村氏)

試しにインターネットで「GPS レンタル」と検索し、現れた検索結果のなかに、「日商エレクトロニクス」のウェブサイトがあった。十和田市現代美術館がオファーし、日商エレクトロニクスがヒアリングを実施、クラウドを活用しての位置情報取得の提案や、その運用方法を説明することで今回の協働が実現した。

「日商エレクトロニクスさんのウェブサイトは分かりやすく、ここなら問い合わせても門前払いされないかもしれないと感じてご連絡したんです。すると早速興味を持っていただけて、感度の高さを感じました。そして10日後ぐらいに協力していただけるということになり、その対応の早さに驚きました」(里村氏)

里村氏コメント:
時間がなく、完成形をイメージできていない状況でも、クラウドサービスを使って迅速に対応頂きました。

北澤氏コメント:
最先端のクラウドでの提供含めて、意思決定と提供の速度が非常に速いところが印象的でした。

クラウドとは無縁の美術館が実感した効果とは

1. Microsoft Azureを利用した迅速なサービス提供

日商エレクトロニクスがオファーを受けたのは会期スタートまで一ヶ月を切った頃。通常、オンプレミスを使ったIT基盤の準備には一ヶ月ほどかかるところ、今回の位置情報追跡ソリューションはAzureのPaaS上で運用しているため、10営業日でサービス提供を実現するなど、迅速な対応が可能となった。

「作品をつくるうえでさまざまな企業とコラボレーションをすることがありますが、日商エレクトロニクスさんはITの専門として、最先端のクラウドでの提供を含め、意思決定と提供の速度が非常に速いところが印象的でした」(北澤氏)

十和田市現代美術館様Microsoft Azure事例

2. 来館者が一目で分かりやすいインターフェースを短期間で開発

モニターに表示される地図が分かりやすいこと、乗り物の位置を示すポインターが乗り物の形をしていることなどの見た目も、来館者の興味を引く一要素となっている。

「当初はピンマークでしたが、日商さんから『画像を差し込めるようにしてポインター代わりにした方がよいのでは』と乗り物のアイコンにすることを提案、実装していただき、作品としてもよりよいものになりました」(里村氏)

Azure PaaS上で独自のアプリケーションを構築しサービス提供されている位置情報追跡ソリューション。開発環境から本番環境への実装も容易なため、開発を短期間で実施できサービス提供できるのも特徴だ。インターフェースにはマイクロソフト社が提供する検索エンジンBingのマップを用い、多くの人が親しみやすいよう設計した。

Azure PaaS位置情報追跡ソリューション

土井氏コメント:
当初想定していた取り組みだけでなく、活用方法についての色々なアイデアが現場で生まれます。

公道で乗り物に乗った人は、イベント開始から1か月程で150人を超える。それほど多くの人々が乗り物に乗って街へ出ているわけだが、その間、公道での乗り物の紛失や事故などはなく、問題なく管理できている。またそれだけでなく、来館者のポジティブな反応がさまざまな形で起こっている。

「館内のモニターのマップの近くにいると『これは何?』とよく聞かれます。乗り物の位置が表示され、それが街なかを移動する様子を俯瞰して見られることで、そのビジュアル自体を楽しまれている方もいれば、街の営みに想像をふくらませる方がいたり、さらにポインターの位置をたよりに現場に見に行ってみようという動きも生まれたりしています」(土井氏)

クラウドのみえない不安を解消する日商エレのサポート

使いやすさやサポート対応の面では、ITに詳しくない美術館スタッフからも好評を得ている。

「クラウドでのサービス提供という事でよくわからず不安だったが、GPSセンサーをお送りいただいて、ビデオ通話で使い方を教えていただくと、意外と簡単に使えそうで安心しました。実際にダッシュボードにアクセスして画面上でいろいろと触ってみると、移動ルートを追えたり、日付ごとに見れたりと、できたらいいなと思うことが直感的に簡単にできて面白いです。ある時、ダッシュボード上の誤操作で、端末が『非アクティブ化』となり、端末からクラウド上に位置情報があがらなくなるという事態に陥ったのですが、日商さんに問い合わせたところ、すぐにクラウド上の環境を調査してくれ、即日対応していただくなど、サポート面でも非常に助かりました」(里村氏)

里村氏コメント:
使い方が分からない時も問合せたら即日対応して頂き、クラウドが分からなくても安心でした。

IT業界にもインパクトを与える異例の取り組み

ITの世界では、技術の導入によって「運用管理の負荷を○○%軽減する」など、業務課題の解決や効率的に成果を上げることを目的とするケースが多いが、アートの世界、とくに地域におけるアートプロジェクトにおいては、そうとも限らない。

「僕にとってアートは、日常を揺さぶり再創造するための試み。アートプロジェクトを通して、日頃の常識や関係性の枠組みを超えた現実をかたちにすることができると考えています。そのアートとITが関わることは、ITにも別の方向や価値の提示の仕方があり得るということを社会に投げかけることにもなると思います。僕自身も思いついたアイデアが、これまでの経験や技術の範囲を超える度に、新しい分野や人と関わっていますが、今回は業界を飛び越えて大きなIT企業さんとお互いの専門性を出し合えたことで、思い描いていたものが良い形で実現できて本当に感謝しています。当初イメージしていたよりもプロジェクトの可能性が拡張された、飛躍の大きいコラボレーションだったと思います」(北澤氏)

「日商さんとご一緒して、高度な技術でまだ身近に感じていなかったクラウドは私たちが想像していた以上に使えるということ、クラウドやIoTを使えば作品の可能性がさらに広がるということもわかったので、これからもこういった取り組みは積極的にしていけたらと思います」(里村氏)

今回のコラボレーションはIoT化したアート作品という稀有な事例と言えそうだ。

位置情報ソリューション構成図

AzurePaaS上に構築された位置情報追跡ソリューションのシステム構成図。センサーからのデータをWebApps,IoT Hubで受信・変換・転送し、StreamAnalyticsでは決められたルールに則りリアルタイムに制御している。センサーからのデータは用途・サイズ・目的・利用頻度にあわせSQLDatabase/CosmosDB/Storage​の保存領域を柔軟に選択することで管理も容易。この他にもMLやAIを活用した分析と、その結果を可視化するPowerBIなど、最先端の機能を提供している。IoTを実現するに必要な機能が用意されており、そのサービス間での接続保証がある為、サービス提供に最適なクラウドとなっている。

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