データ活用を推進しなければならない理由

本記事はデータサイエンスの第一人者 中西崇文氏からの寄稿記事です。
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現在、人工知能(AI)、機械学習(ML)、データサイエンスなど、データ活用の重要性がよりいっそう叫ばれるようになりました。一方で、なぜデータ活用が注目を浴びているのか、なぜデータ活用が重要なのかが明確にわからないと悩んでいる方もおられるかと思います。

本稿では、データ活用がこれからのビジネスにとって重要なのかを述べていきたく思います。

これからのビジネスにおいては、データ活用が重要

まず、現在注目を浴びている人工知能(AI)の多くは機械学習(ML)のことを指していると考えても過言ではないでしょう。機械学習とはデータから学習により自動でルールやパターンを発見する手法です。「データから」というのが肝であり、データを活用することで、何らかのタスクを自動化するものと考えればよいわけです。つまり、過去のデータを活用することによって、ビジネスのタスクの一部を効率化したり、自動化したりすることができるというわけです。このようなことから、人工知能(AI)、機械学習(ML)は、データ活用を推し進めるための強力なツールであることがお分かりになられるかと思います。

ここでもう一つ、アクセンチュアが2017年に発表した資料によると、2035年の各国の経済規模について、従来予想の経済成長を示す「ベースライン」と人工知能(AI)が市場に浸透した場合に期待される経済成長を示す「AI Steady State」とのGVA(粗付加価値)成長率(GDP成長率とほぼ相当すると考えて良い)を比較しています。特に日本はベースラインと比べ、AI Steady Stateは3倍になる可能性を示唆しており、その他の国でも大きな違いを示唆しています。これらのことから、人工知能(AI)、機械学習(ML)、データサイエンスを導入している企業とそうではない企業とどんどん差が開くであろうことも推察できるでしょう。

ここまで述べても、自社・自身のビジネスにおいては、人工知能(AI)、機械学習(ML)、データサイエンスは遠い話だと考えられる方もいらっしゃるかもしれません。

いま、データ活用を推進しなければならない理由

今、人工知能(AI)、機械学習(ML)、データサイエンスなどによるデータ活用を推進しなければならない理由として、
(1)社会が導入に向かうことによる効率化・高速化によるビジネス転換
(2)人材の多様化による勘やコツからの脱却とエビデンスの重要性
が挙げられます。

社会が導入に向かうことによる効率化・高速化によるビジネス転換

(1)については、上記、人工知能(AI)、機械学習(ML)、データサイエンスの導入されたところから、過去のデータを活用して、様々なタスクが効率化・自動化されることにより、ビジネス自体のスピードもこれまでと比べ非常に素早いものとなっていくと考えられます。そうなれば、これまでになく素早い、意思決定、業務遂行が必要となってきます。人工知能(AI)、機械学習(ML)、データサイエンスのなしに、そのような時代に進むのは、パソコンやスマートフォンなしに現在の時代に生きるのと同じことです。人間の努力とガッツで我慢を続けるのでしょうか。ワークライフバランスが叫ばれる現在において、我々の働き方を考えるに、素早い、意思決定、業務遂行が必要な状態ではやはり、データ活用の力を取り入れるしか方法はないかと考えられます。

人材の多様化による勘やコツからの脱却とエビデンスの重要性

(2)については、これからの多様な人材が集まる職場環境を考えることです。現在、多様な人材が共に働く環境が整いつつあります。多様な人材が集まってくるということは、多様な考え・価値観が生まれるわけです。多様な人材が共に働く環境が整う以前は、逆に言えば、同じ考え・価値観の人が力を合わせて同じ目標に向かって走るというのが仕事の仕方でした。その際には、同じ考え・価値観であるため、少しのコミュニケーションで、いわゆる勘やコツといったもので仕事を推し進めたとしては、共に働いている人々がそのような勘やコツを理解しやすかったと考えることができます。それに対して、多様な人材が交流する場では、勘やコツは通用しません。考え・価値観が違うために、なぜその案や方法を推進するのか、こと細やかに説明する必要が出てきます。この説明にはエビデンス(根拠)をもって、人々を納得させ、ビジョンを示す必要があるわけです。このエビデンスは、データ活用をし、データから導き出したものというのが共通言語となっていきます。ダイバーシティ&インクルージョンが真に実現されるためには、データ活用は必須となってくるわけです。

すべて人が、データ分析をすべき

このように考えていくとデータ活用は、データサイエンティストやAIエンジニアなどの専門家によるものではなく、すべての人がリテラシを持ち、恩恵を受ける必要があります。

これまでは、データ分析のツールは使いづらい、難しい印象がありましたが、最近では、非常に直感的に簡便に使うことができるものが多くなってきています。データ分析を人任せにするのではなく、自分のビジネス・タスクの遂行におけるエビデンスを補強する目的であるならば、自分自身でデータリテラシを身につけ、データ分析をすべきです。

少し前に「ビッグデータ」という言葉が流行し、中にはデータ分析を行うためには、膨大なデータを収集しなければならないと考えている方も多いように見受けられます。私は「スモールデータ」でも構わないと考えております。重要なことは、自社・自身のビジネスにおいて、重要な課題に少しでもデータ分析を取り入れることです。自社・自身にはそんな活用できるデータはないという方もいますが、そんなわけはありません。現在、何らかのICT環境を使ってビジネス・タスクを遂行しているのであれば、データがないわけはないです。

ただし、すぐにデータ分析ができるように整理されているかは別問題です。データを使えるようにするための「前処理」はときには非常に大きな負担となります。そこは経営層、現場、両者ともに覚悟が必要となります。データを活用できるように前処理をしていく、整備をしていく作業はデータ分析全体において約8割の時間を費やすことが常と言われたりもします。そのあたりを覚悟できれば、きっと自社・自身がデータ活用のトップランナーとして活躍できるのも夢ではありません。

ビジネスにおけるデータ分析は、我々がより素早く、効率的に、多様な人材が働く社会で必要になってきていることについて、ここまで示してきました。まずは小さな一歩でも構いませんので、自身の手でデータ活用を進めてみませんか?

この記事を書いた人

中西崇文
中西崇文
武蔵野大学 データサイエンス学部
データサイエンス学科長 准教授
国際大学グローバル・コミュニケーション・センター主任研究員
デジタルハリウッド大学大学院客員教授
データサイエンティスト、博士(工学)

1978年、三重県伊勢市生まれ。

2006年3月、筑波大学大学院システム情報工学研究科にて博士(工学)の学位取得。2006年より情報通信研究機構にてナレッジクラスタシステムの研究開発等に従事。2014年4月より国際大学グローバル・コミュニケーション・センター准教授・主任研究員、テキストマイニング、データマイニング手法の研究開発に従事。2018年4月、武蔵野大学工学部 数理工学科 准教授。2019年4月より現職。

現在、機械学習などをはじめとする人工知能技術をコアとしたシステムの研究開発やそれらのビジネス、サービスの立ち上げを目的とした企業連携研究プロジェクトを多数推進中。

総務省「AIネットワーク社会推進会議」構成員、経済産業省 「流通・物流分野における情報の利活用に関する研究会」委員、総務省「ICTインテリジェント化影響評価検討会議」構成員、等歴任。

専門は、データマイニング、ビッグデータ分析システム、統合データベース、感性情報処理、メディアコンテンツ分析など。

著書に『スマートデータ・イノベーション』(翔泳社)、「シンギュラリティは怖くない:ちょっと落ちついて人工知能について考えよう」(草思社)などがある。