AI・データ活用をビジネスで実現する大変さと重要さ

本記事はデータサイエンスの第一人者 中西崇文氏からの寄稿記事です。
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AI・データ活用が叫ばれて長く、またDXブームもあり、組織内のシステムがシームレスに連携し、ディジタルデータが取得しやすい状況になりつつあります。そのような状況になったといえども、やはりAI・データ活用のところまで実現するのに難しさを感じる方がいらっしゃるかもしれません。

AI・データ活用は、何か素晴らしいパッケージみたいなものを実現すれば、みんながハッピーになるようなものではないのです。では、AI・データ活用は難しいのでやらないという答えはありえません。なぜなら、以前こちらでご紹介した通り、AIを導入しない未来と、AIを導入する未来の成長率の数字を出したように、成長率が3倍違ってきます。この資料は国ごとに導出していますが、感覚的には企業ごとでも、AIを導入しない企業とAIを導入する企業の成長率が3倍違うというのはもう市場で織り込み済みのことなのです。

AI・データ活用を推進することは、難しい話であるが、推進しないと毎年3倍の成長の差が発生してしまうということです。この大変さとどのように向き合うかを示していきたく思います。

誰もがAIを必要と思っていてもビジネスに活用するのを難しいと考えている

2019年と少し古いレポートとなりますが、アクセンチュアの「AI: BUILT TO SCALE」という資料には、非常に興味深いデータが出ています。これは、企業のAI導入について、日本を含む世界12カ国16の業界にわたる企業の経営幹部1,500人への調査をしたものです。世界全体で経営幹部の84%がAIの幅広い活用はビジネス戦略に不可欠と考えています。しかしながら76%の経営幹部がAIの全社的な活用に苦労していると回答しているとのことです。

また、AI導入を本格的に導入した企業はわずか16%であることも示唆されています。ただ、この16%の企業は他の企業に比べて3倍近い投資対効果を得ていることも明らかになっています。

つまり、AI・データ活用について推進することは重要と思いつつ、実際やろうとすると苦労しているというのが浮き彫りになっています。AI・データ活用をどのように導入していかないといけないのかというのをもう一度整理していかないといけないと思います。

ビジネス課題を整理し直す

AI・データ活用の方法は画一的な一通りに集約されるわけではなく、無数に存在します。その無数な活用方法のうち、どのような方法が自社に合致するのかを、AI・データ活用を目的としてそれを策定するのは本末転倒です。重要なことは、自社のクリティカルな課題は一体何であるのか、そしてその課題を解決することによって、どのように自社を変化することができるのかを明確にすることが重要です。その課題を解決するためにどのようなAI・データ活用が実現できるのかという形で考えていくことが成功の鍵となります。

データの重要性の再認識すること

アクセンチュアの「AI: BUILT TO SCALE」によると、95%の企業がAIを本格活用するための基盤としてデータの重要性を指摘しています。また世界では、71%の企業は適切なツールを使ってデータ資産から知見を集めています。

このようにみていくと、世界の潮流では、データを整備し、データから知見を集めることは当たり前ということになります。ただ、AIを導入していくところはまだ先見の余地があるかといったところです。

私自身が心配になっていることがあります。日本国内では、DXというキーワードで、様々な企業内にもデジタライゼーションの波が押し寄せて、シームレスなシステム環境が構築されつつあることは非常に歓迎することなのですが、それがきちんとAI・データ活用に結びついているかという疑念があります。DXはデータ基盤を整えるためには非常によいムーブメントと思いますが、そこまで考えられているか、つまり、単にシステム導入で終わっていないかということです。

せっかくできたデータ蓄積環境において、それらのデータが溜まっているだけでは意味がないのです。データ活用をして世界の71%の企業に入り、AI導入をして世界の16%の企業に入るだけで明らかに企業の業績が変わってくるはずです。

それを実現するためには、整理した自社のビジネス課題に併せてデータを分析可能なデータに変えていくことです。分析可能なデータに変えるというのは、そのビジネス課題を観察するのに適したデータを抽出し、揃えると同時に、新たに時事刻々と蓄積されるデータについてデータ抽出、揃えるという操作を自動的に行える環境を整えることです。データ分析は1度で終わらせるわけではなく、経年変化、つまり時系列の変化が重要となります。これらを取り扱うためには、時事刻々と変化する中で知見を見つけるということが重要となります。

これは今風のデータ活用では非常に重要な点です。現在、ビジネスの中でのデータ取得が非常に容易になりつつあり、それを時事刻々と集め続けることも難しくなくなっているからです。

自社内の様々な部署を超えたコミュニケーションすること

AI・データ活用をうまくすすめるためには、部署を超えたコミュニケーションが重要になると考えます。

その前に、AI・データ活用を推し進める部署もしくは人材が自社にあるかが重要です。もし外部に頼む場合でも、自社の課題を深く共有できるようなAI・データ活用を推し進める部署もしくは人材が自社に置くことは成功のための第一歩です。

そして、AI・データ活用を推し進める部署と現場とでコミュニケーションを密に行うことです。現場の長年の勘やコツというのは非常に重要です。AI・データ活用を通じて、その長年の勘やコツが本当に有効なのかを検証しつつ、新たな知見を導出する必要があります。よくある例としては、AI・データ活用をしても、これまでの勘やコツで感じていたことと同じ結果が出たということです。これは悲しむべきことではなく喜ぶべきです。長年かかっていた知見を短い時間でデータで示すことができたということは、AI・データ活用を推し進める強い理由になります。それを踏まえた上で、どのようにAI・データ活用によって新たな知見を生み出すかを時間を惜しまず話合うことが重要なのです。

また、経営層と現場がAI・データ活用において、コミュニケーションすることは非常に重要です。経営層に、AI・データ活用を推し進めるというコミットメントがなければ、現場は動きません。まずは現場とそのコミットメントを示すべきでしょう。

さらに、経営層は往々にしてAI・データ活用に関して夢を見がちです。現実問題どのような形でAI・データ活用が有効に推進できるのか、これは現場が経営層に説明をする必要があります。どの自社の課題をAI・データ活用によって解決したのかです。大事なのはHowは現場が考えることでありますが、Whatは経営層と現場が共有すべきことです。

両者がAI・データ活用で自社のビジネス課題を解決するというベクトルが合っていないとなかなかうまくいきません。

おわりに

ここまで、AI・データ活用をビジネスで実現する大変さと重要さを述べてきましたが、基本的には、

  • AI・データ活用で自社のビジネス課題を解決するという方針を経営層・現場とが共有すること
  • 自社のビジネス課題を明確にすること
  • AI・データ活用を推し進める部署の構築
  • AI・データ活用を推し進める部署と現場での新たな知見に関する共有

が重要であることを示してきました。

これを素早く実現できるだけで、世界の71%の企業に入り、AI導入をして世界の16%の企業に入ることができ、3倍近い投資対効果を出すことができます。これは業種を問いません。AI・データ活用を一部の先端企業だけの話と捉えるのは間違いです。ぜひAI・データ活用を進めていきませんか。

この記事を書いた人

中西崇文
中西崇文
武蔵野大学 データサイエンス学部
データサイエンス学科長 准教授
国際大学グローバル・コミュニケーション・センター主任研究員
デジタルハリウッド大学大学院客員教授
データサイエンティスト、博士(工学)

1978年、三重県伊勢市生まれ。

2006年3月、筑波大学大学院システム情報工学研究科にて博士(工学)の学位取得。2006年より情報通信研究機構にてナレッジクラスタシステムの研究開発等に従事。2014年4月より国際大学グローバル・コミュニケーション・センター准教授・主任研究員、テキストマイニング、データマイニング手法の研究開発に従事。2018年4月、武蔵野大学工学部 数理工学科 准教授。2019年4月より現職。

現在、機械学習などをはじめとする人工知能技術をコアとしたシステムの研究開発やそれらのビジネス、サービスの立ち上げを目的とした企業連携研究プロジェクトを多数推進中。

総務省「AIネットワーク社会推進会議」構成員、経済産業省 「流通・物流分野における情報の利活用に関する研究会」委員、総務省「ICTインテリジェント化影響評価検討会議」構成員、等歴任。

専門は、データマイニング、ビッグデータ分析システム、統合データベース、感性情報処理、メディアコンテンツ分析など。

著書に『スマートデータ・イノベーション』(翔泳社)、「シンギュラリティは怖くない:ちょっと落ちついて人工知能について考えよう」(草思社)などがある。