人工知能によって仕事が奪われる心配をする前に

本記事はデータサイエンスの第一人者 中西崇文氏からの寄稿記事です。
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人工知能(AI)の話になると、どうしてもSFでの話が混ざってしまって、うんざりしてしまうことがあります。例えば、AIに仕事を奪われるというお話です。もちろん、AIが導入されることによって、なくなってしまう職業があるのは確かです。その一面を見るといままでその職業についていた人々の仕事をAIが奪っているように見えます。

そういう変化はこれまでも起きていたという例を示したく思います。

AIに置き換わってしまう仕事は、常に変化する世の中の動き

下記のリンクは、1900年のニューヨーク5番街の写真です。
https://www.archives.gov/exhibits/picturing_the_century/newcent/newcent_img1.html

次に、下記のリンクは、1913年のニューヨーク5番街の写真です。
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Ave_5_NY_2_fl.bus.jpg

これらの比較はよく語られていますが、1900年では、道には馬車が走っていたのに対し、1913年では、自動車が埋め尽くされています。13年の間に馬車から自動車へと大きく変貌を遂げているわけです。たった13年で時代はこれだけ動くわけです。馬車だった頃は、馬の世話をする仕事が必要だったはずですが、その仕事はなくなり、その代わり自動車を整備する仕事が台頭してきたはずです。有名ブランドエルメスは元々高級馬具工房でしたが、徐々に革製品のバッグなどを中心と移行していくわけです。

そもそもこの記事を執筆している2022年から13年前の2009年というと、トヨタのプリウスがヒット商品となった年でもあります。現在、電気自動車が注目されていますが、2009年の時点でガソリン車からの変化の一歩を歩んでいたことが分かります。

もっと言えば、その2年前、2007年には初代iPhoneが発売されました。iPod Touchという音楽プレイヤに電話の機能を合体させるというアイデアで始まったものでありますが、それ以上の革新が起きていると考えてもよいかと思います。2007年の時点でそこそこの大人であったユーザにとっては、自分のオフィスのディスク周りが気づかないうちに少しずつ変化していることも確認できるかと思います。

少なくとも物事の当たり前というのは、これまでも書き換えられており、少なくとも10年経てば入れ替わってしまうわけです。その入れ替わるスピードは、技術革新の積み重ねにより、どんどん早くなってきているというわけです。

このように考えれば、AIに置き換わってしまう仕事というのは、上記の変容を振り返れば、常に変化する世の中の動きの一つと考えて問題ないかと思います。

AIに任せた方がコストに見合うものは、どんどん任せるべき

ここまで話で誤解していただきたくないのは、AIでのなくなってしまう職業は時代の流れで仕方がないという消極的なモチベーションであるということではないということです。どちらかと言えば、AIに任せた方がコストに見合うものは、どんどん任せるべきだと考えております。

一つ例を挙げましょう。国土交通省が発表している「令和2年度宅配便取扱実績について」の資料をみてみたく思います。

そこに、宅配便取扱個数の推移というグラフがあります。それによると1年間の宅配便取扱個数について、平成4年時点では12億4500万個であったのに対し、令和2年では、48億3600万個に増えています。特に、コロナ禍による巣篭もり需要であるのか、令和元年から令和2年での伸び率は非常に大きくなっております。それだけでなく、これまで、1年間の宅配便取扱個数は増え続けてきたわけです。これほど増えた宅配便取扱個数について、どこまで運送業の人員を増やしたり、そこに働く人の労働時間を長くしたりすることによって耐えられるのでしょうか。私はすでに限界を迎えていると思います。限界を迎えているのにも関わらず、人間が頑張ることをすると、社会としてはうまく回っているかもしれませんが、実は、そこで働く人がかなりブラックな環境下に晒される可能性がどんどん高まっていきます。

ガッツや根性論はそろそろ終わりにしなければ、ワークライフバランスが叫ばれている現在の理想の労働環境を獲得することはできません。そこで必要となるのが、AIをはじめとする技術に頼ることなのです。

上記の例でいけば、運転手の職を奪うと言われているAIによる自動運転をどれだけ速く通常の運送に実装していくかというのが重要ということです。これ以上宅配便取扱個数が増えるのは今後人口が減っていく日本において、サービスレベルを保ちながら、AI抜きで推進することは不可能です。

また、宅配便取扱個数が増えると、それを配送する際の環境問題も気になります。増え続ける宅配便取扱個数によって、どのように効率的に配達するかということは、地球環境を考える上でも重要になってくるわけです。SDGsが注目されていますが、SDGsを実現するためには、AIによる自動化、効率化を推進していかなければ実現しないという側面もあります。

我々が平和で快適な生活を送るために、AIは救世主になってくれるはず

AIと聞くともしかすると先端をいく企業によって実現していくものと思い違いがあるかもしれませんが、どの分野のどの業種においても導入をしていかないといけないものです。上記の宅配便取扱個数の伸びのように、人間はより便利な社会を求めますが、それを全て人間自身がこなすことは不可能なのです。

AIに職業を奪われると怯える前に、現在起きている社会の状況をよく観察した上で、我々が平和で快適な生活を送るためにはどうしたらいいのかという俯瞰した視点を持っておくことは非常に重要だと思います。そのような視点で今の世界を見渡してみると、現実世界において、特に日本では人口が減っていくトレンドの中で、人間の労力だけで物事を環境問題を考慮しながら回し続けることが不可能になってきていることが見えてくるでしょう。その中で、AIは救世主になってくれるはずです。日本のことを少子高齢化問題先進国と呼ばれたりしますが、世界のモデルケースとして確立するためには、AIが導入できる分野、業種において、うまくAIを活用していくことを実現できなければ、名前負けしてしまうでしょう。

世界の急激な変化の中で、我々の生活も急激に変化を起こしており、その中で、これをサスティナブルに回していくためには、AI導入は絶対であることを認識する必要があるでしょう。

この記事を書いた人

中西崇文
中西崇文
武蔵野大学 データサイエンス学部
データサイエンス学科長 准教授
国際大学グローバル・コミュニケーション・センター主任研究員
デジタルハリウッド大学大学院客員教授
データサイエンティスト、博士(工学)

1978年、三重県伊勢市生まれ。

2006年3月、筑波大学大学院システム情報工学研究科にて博士(工学)の学位取得。2006年より情報通信研究機構にてナレッジクラスタシステムの研究開発等に従事。2014年4月より国際大学グローバル・コミュニケーション・センター准教授・主任研究員、テキストマイニング、データマイニング手法の研究開発に従事。2018年4月、武蔵野大学工学部 数理工学科 准教授。2019年4月より現職。

現在、機械学習などをはじめとする人工知能技術をコアとしたシステムの研究開発やそれらのビジネス、サービスの立ち上げを目的とした企業連携研究プロジェクトを多数推進中。

総務省「AIネットワーク社会推進会議」構成員、経済産業省 「流通・物流分野における情報の利活用に関する研究会」委員、総務省「ICTインテリジェント化影響評価検討会議」構成員、等歴任。

専門は、データマイニング、ビッグデータ分析システム、統合データベース、感性情報処理、メディアコンテンツ分析など。

著書に『スマートデータ・イノベーション』(翔泳社)、「シンギュラリティは怖くない:ちょっと落ちついて人工知能について考えよう」(草思社)などがある。